映画では語られない『メン・イン・ブラック』の真実。MIBは地球の守護者か、それとも“影の次元”からの監視者か? Beyond The Black Suit

黒いスーツが隠す、宇宙最大の秘密

黒いスーツに、黒いサングラス。手にした銀色のガジェットから放たれる一閃の光が、私たちの記憶から「ありえない出来事」を消し去っていく――。

映画『メン・イン・ブラック(MIB)』シリーズは、地球に潜伏するエイリアンを監視・管理する極秘組織の活躍を描き、世界中の人々を魅了してきました。ウィル・スミス演じる陽気なエージェントJと、トミー・リー・ジョーンズ演じる寡黙なベテラン・エージェントK。彼らの軽快なコンビは、私たちに「宇宙人はすぐ隣にいるのかもしれない」という、少しだけワクワクするような空想を与えてくれました。

映画の中で彼らは、紛れもなく「人間」です。卓越した能力と未知のテクノロジーを駆使しますが、その出自は地球人であり、人類を守るためにその存在を消したヒーローとして描かれています。

しかし、もしその設定自体が、我々観客に向けられた壮大な「記憶消去」だとしたら?

実は、この「黒服の男」の物語は、ハリウッドの脚本家が作り出した完全な創作ではありません。そのルーツは、1950年代からUFO研究家や目撃者の間で囁かれ続けてきた、不気味で不可解な都市伝説に深く根差しているのです。そして、その都市伝説が語るMIBの姿は、映画の陽気なヒーロー像とは似ても似つかない、冷徹で、人間離れした、まるで“異次元の影”からやってきたかのような存在でした。

この記事では、映画のフィルターを通して語られる「守護者としてのMIB」と、都市伝説の闇の中で語り継がれる「監視者としてのMIB」という二つの顔を徹底的に比較・考察します。ジョン・A・キールら伝説的な研究家が提唱した驚くべき仮説を紐解きながら、黒いスーツに隠された彼らの本当の正体に迫っていきましょう。

記憶を消される前に、知るべき真実がここにあります。


第1章:映画版『MIB』の世界観 – 地球を守る陽気なエージェントたち

物語の考察を始める前に、まずは我々がよく知る映画版『メン・イン・ブラック』の世界観を再確認しておきましょう。この基盤を理解することが、後に続く都市伝説との深い溝、そして意外な接点を発見する鍵となります。

■「個人」を捨て、組織に生きるエージェント

映画におけるMIBは、政府のいかなる機関にも属さない、完全に独立した超法規的組織です。その存在は一般市民にはもちろん、各国の政府高官にすら知られていません。彼らの主な任務は、地球が銀河系の「中立地帯」として機能するよう、地球にやってきたエイリアンたちの活動を監視し、トラブルを防ぎ、その存在を一般大衆から隠蔽することです。

エージェントになるための条件は極めて過酷。候補者はまず、あらゆる個人情報を抹消されます。指紋、経歴、社会保障番号…過去のすべてを捨て、世界にとって「存在しない人間」となるのです。エージェントJ(元ニューヨーク市警刑事ジェームズ・エドワーズ)がリクルートされるシーンは、その象徴です。彼は自らのアイデンティティを捨て去る覚悟を問われ、承諾した瞬間に、世界から彼の記録は消え去りました。

彼らは「システムの一部」となり、黒いスーツという没個性的な制服を身にまといます。これは、彼らがもはや一個の人間ではなく、地球を守るという巨大な目的のための歯車であることを示唆しています。彼らの忠誠心は国家ではなく、地球そのもの、そして組織の理念に捧げられているのです。

■超テクノロジーとユーモアという武器

MIBの強みは、なんといってもエイリアンから供与された、あるいは鹵獲した超科学技術です。代表的なガジェットをいくつか挙げてみましょう。

  • ニューラライザー(Neuralyzer): MIBを象徴する記憶消去装置。目撃者の記憶をピンポイントで消去し、カバーストーリーを植え付けることができます。これにより、エイリアンの存在を隠蔽し、社会のパニックを防いでいます。このガジェットの存在こそが、MIBの隠密活動の根幹を支えています。
  • ディ・アトマイザー(De-Atomizer): 小さな拳銃に見えますが、その威力は絶大。ターゲットを原子レベルで分解してしまう、強力なエネルギー兵器です。シリーズを通して様々なバリエーションが登場し、エージェントたちの標準装備となっています。
  • 通信機や車両: 見た目はごく普通のアイテムでも、その性能は地球の科学力を遥かに凌駕しています。エージェントKの愛車フォードLTDは、ボタン一つで天井走行可能なロケットカーに変形しました。

これらのテクノロジーは、エイリアンとの戦闘や交渉において絶対的なアドバンテージをもたらします。しかし、映画『MIB』が他のSFアクションと一線を画すのは、そこに溢れるユーモアのセンスです。凶悪なエイリアンを相手にしながらも、エージェントJとKの会話は常にウィットに富み、絶望的な状況でさえ観客を笑わせます。このユーモアこそが、彼らが困難な任務を遂行する上での精神的な武器であり、彼らが「人間らしさ」を失わずにいる証拠とも言えるでしょう。

■あくまで「人間」としての守護者

重要なのは、映画シリーズを通して、エージェントたちが「人間」であるという前提が一貫して描かれている点です。彼らは驚異的な訓練を受け、超テクノEロジーを使いこなしますが、苦悩し、葛藤し、時には私情に揺れることもあります。

エージェントKは長年の任務で心をすり減らし、愛する女性との未来を諦めました。『MIB3』では、若き日のKのトラウマと、Jとの間に芽生える父子のような絆が描かれました。エージェントJもまた、普通の生活への憧れと、地球を守る使命との間で揺れ動きます。

彼らはエイリアンの脅威から地球を守る「守護者」であり、その原動力は人類への愛情や責任感といった、極めて人間的な感情に基づいています。彼らの活躍は、我々と同じ人間が、大きな犠牲を払いながらも、見えない場所で世界を守ってくれている、というヒーロー物語の王道なのです。

しかし、この明快で希望に満ちた物語の裏側には、全く異なる「黒服の男」の伝説が、暗く、冷たい影を落としているのです。次の章では、その不気味な影の正体へと足を踏み入れていきましょう。


第2章:都市伝説のMIB – 人間離れした”黒服の男”の目撃譚

映画の陽気な世界から一転、ここからは現実世界で語り継がれてきた「メン・イン・ブラック」の原典、すなわち都市伝説の領域に深く分け入ります。映画のコミカルなエージェントとは似ても似つかない、彼らの姿は、恐怖と謎に満ちています。

■始まりの事件:アルバート・ベンダーと三人の男

「メン・イン・ブラック」という存在がUFOコミュニティで広く知られるようになったのは、1953年に起きた「アルバート・ベンダー事件」がきっかけでした。ベンダーは、世界初の本格的なUFO研究団体「国際飛行円盤局(IFSB)」の設立者です。彼は自身の研究でUFOの謎の核心に迫りつつあると信じ、その成果を会報で発表しようとしていました。

しかし、その直前、彼の元に三人の“黒いスーツを着た男”が訪れます。ベンダーの証言によれば、彼らは突然部屋の中に現れ、超能力のようなもので彼に語りかけてきたといいます。男たちは、ベンダーが掴んだUFOの真実を公表しないよう、強い口調で警告しました。彼らの目はらんらんと輝き、言い知れぬ恐怖を感じたベンダーは、警告に従うしかありませんでした。

この訪問の後、ベンダーはIFSBを突然解散させ、UFO研究から一切手を引いてしまいます。彼は周囲に「私は脅された」「彼らに真実を口止めされた」とだけ語り、その詳細は長い間、謎に包まれました。この事件は、UFO研究家グレイ・バーカーが著書『彼らはUFOについて知りすぎた(They Knew Too Much About Flying Saucers)』で取り上げたことで、一躍有名になりました。こうして、「UFOの真実を隠蔽するために現れる、謎の黒服の男」という伝説が誕生したのです。

■目撃される“人間離れした”特徴

ベンダー事件以降、UFOや超常現象の目撃者、研究者の前にMIBが現れたという報告が、世界中で散発的に報告されるようになります。そして、それらの報告には、奇妙なほど共通した特徴が見られました。それは、彼らが決して「普通の人間」ではないことを強く示唆するものでした。

  • 不自然な外見:
    • 肌: まるで蝋人形かプラスチックのように、不自然に滑らかで血の気のない白い肌。あるいは、不自然なほど日焼けしたような浅黒い肌をしているとも言われます。
    • 顔立ち: 表情が全くなく、仮面をかぶっているかのよう。目は大きく、時にサングラスで隠されていますが、サングラス越しでも異様に輝いて見えるという証言もあります。アジア系のようにも、ネイティブアメリカンのようにも見えるが、どこの人種とも断定できない、奇妙に混ざり合ったような顔立ちをしていることが多いとされます。
    • 体格: 極端に痩せているか、逆に異常なほどがっしりしている。しかし、その動きはぎこちなく、まるでロボットのようだと表現されます。
  • 奇妙な振る舞い:
    • 服装: 常にシワ一つない完璧な黒いスーツを着用。しかし、そのスタイルはどこか時代遅れで、1950年代から時が止まっているかのようです。
    • 話し方: 抑揚のない、機械的なモノトーンで話す。言葉の使い方が古風だったり、文法的に奇妙な言い回しをしたりすることがあります。
    • 行動: 一般常識が欠如しているかのような行動を取ります。例えば、ナイフとフォークの使い方が分からなかったり、ゼリーをストローで飲もうとしたり、ごく簡単なジョークが理解できなかったりします。また、彼らが乗ってきたとされる車は、ピカピカの黒いキャデラックなど、これもまた時代錯誤な高級車であることが多いですが、ナンバープレートがなかったり、すぐに姿を消したりすると言われます。
  • 超常的な能力:
    • 彼らは物理法則を無視しているかのように、施錠されたドアを通り抜けたり、忽然と姿を現したり消したりします。
    • 目撃者の思考を読んでいるかのような言動を取り、誰も知らないはずの個人情報を口にすることがあります。
    • 彼らが去った後には、奇妙な匂い(オゾン臭や硫黄の臭い)が残されることがあるとも報告されています。

これらの特徴は、映画『MIB』のエージェントたちとは正反対です。映画のエージェントが人間社会に完璧に溶け込んでいるのに対し、都市伝説のMIBは「人間のフリをしているが、明らかに人間ではない何か」としての不気味さを漂わせています。彼らの目的は、地球を守ることではなく、ただ一点、「UFOやエイリアンに関する情報を、力ずくで隠蔽すること」にあるように見えるのです。

では、彼らは一体何者なのでしょうか?宇宙から来たエイリアンなのでしょうか?それとも、全く別の、我々の想像を絶する存在なのでしょうか?次の章では、この謎をさらに深く掘り下げる、あるUFO研究家の驚くべき仮説に迫ります。


第3章:異次元からの来訪者? – ジョン・A・キールと「ウルトラ・テレストリアル」仮説

都市伝説のMIBが「人間ではない何か」であることは、数々の目撃報告から浮かび上がってきました。しかし、彼らを単純に「UFOに乗ってきた宇宙人」と結論付けるのは早計です。20世紀を代表する超常現象研究家の一人、ジョン・A・キールは、この謎に対して、より斬新で、より深遠な仮説を提唱しました。それは、MIBの正体を根底から覆す可能性を秘めた理論でした。

■UFO研究の異端児、ジョン・A・キール

ジョン・A・キール(1930-2009)は、ジャーナリスト出身のUFO・超常現象研究家です。彼は、他の研究家のようにUFOを「地球外から飛来した知的生命体の乗り物(地球外仮説)」と考えるのではなく、もっと複雑で奇妙な現象として捉えようとしました。彼は世界中のUFO目撃事件や超常現象の現場に足を運び、膨大な数の目撃者や関係者に直接インタビューを行いました。

その調査の過程で、キールは奇妙なパターンを発見します。UFO目撃、ポルターガイスト、UMA(未確認生物)の出現、そしてMIBの訪問といった、一見無関係に見える超常現象が、特定の地域や時期に集中して発生する傾向があることに気づいたのです。

この発見から、キールは大胆な仮説を打ち立てます。それは、「これらの現象はすべて、同じ根源から生じているのではないか?」というものでした。そして、その根源とは、地球外の惑星ではなく、我々が認識しているこの三次元空間と並行して存在する**「別の次元」あるいは「別の現実」**であると考えたのです。

■「ウルトラ・テレストリアル(超地球的存在)」という概念

キールは、この別次元に存在する知的生命体を**「ウルトラ・テレストリアル(Ultra-Terrestrials)」**と名付けました。「地球外(Extra-Terrestrial)」ではなく、「超地球的(Ultra-Terrestrial)」という言葉を選んだのは、彼らが宇宙の彼方からやってくるのではなく、もともと地球に、あるいは地球と重なり合うように存在する、我々とは異なる振動数や次元に住む存在だと考えたからです。

キールの理論によれば、ウルトラ・テレストリアルは、我々の現実を自在に操る能力を持っています。彼らは、我々が「UFO」として認識するような光や物体を投影したり、人間の姿や動物の姿(モスマンやビッグフットなど)を借りて我々の前に現れたりすることができます。彼らの目的は、人類を研究・観察すること、あるいは、我々の精神や文化に干渉し、ある種の「操作」を行うことにあるのではないか、とキールは推測しました。

そして、このウルトラ・テレストリアル仮説の中に、MIBは完璧に位置づけられるのです。

■影の次元から来るMIB

キールによれば、MIBはウルトラ・テレストリアルが、我々の現実に干渉するために送り込んでくるエージェントです。彼らが人間離れした奇妙な振る舞いをするのは、彼らが「本物の人間」ではなく、ウルトラ・テレストリアルが我々の文化や社会を不完全に模倣して作り出した「シミュラクラ(模造品)」あるいは「生体ロボット」のような存在だからです。

  • 時代遅れの服装や車: 彼らは我々の現実から情報を断片的にしか抽出できないため、少し古い時代のデータ(1950年代のファッションや車など)を基に“人間”をシミュレートしているのかもしれません。
  • ぎこちない動作や常識の欠如: 人間の複雑な感情や社会的な約束事を完全に理解・模倣することができないため、その行動がぎこちなく、奇妙に見えるのです。
  • 超常的な能力: 施錠された部屋に現れたり、忽然と消えたりするのは、彼らが我々の物理法則に縛られない、次元の壁を超えて移動できる存在だからだと説明できます。

そして最も重要なのが、彼らの目的です。キールの説では、MIBがUFO目撃者に接触し、情報を隠蔽させようとするのは、ウルトラ・テレストリアルの存在そのものを人類に悟られないようにするためです。彼らは、自らの正体や活動が、我々人類によって解明されてしまうことを極端に恐れているのかもしれません。彼らは目撃者を脅し、混乱させ、時に偽の情報を与えることで、真実から我々の目をそむけさせようとしている「偉大なる詐欺師」なのだとキールは考えました。

この「異次元存在説」は、MIBの不可解な特徴の多くを合理的に説明することができます。彼らは宇宙人ではなく、地球という舞台の裏側、いわば**“影の次元”**からやってきて、我々の現実という舞台を操ろうとする、得体の知れない存在なのです。

この恐ろしくも魅力的な仮説を踏まえた上で、再び映画『MIB』の世界に目を向けてみましょう。一見すると無関係に見えるこの二つの世界に、実は奇妙なリンクが隠されているのかもしれません。


第4章:映画に散りばめられた“非人間”のヒント

映画『メン・イン・ブラック』のエージェントたちは、あくまで「人間」である――。これは、シリーズを通して貫かれる公式設定です。しかし、ジョン・A・キールが提唱した「ウルトラ・テレストリアル仮説」というレンズを通して映画を再鑑賞すると、これまで見過ごしてきた些細な描写や設定が、全く異なる意味を帯びて見えてくるから不思議です。

公式設定の裏で、制作陣は意図的に、あるいは無意識的に、彼らが「ただの人間ではない」可能性を示唆するヒントを散りばめているのかもしれません。

■起源不明の組織とオーバーテクノロジー

MIBという組織は、一体いつ、誰が、どのようにして設立したのでしょうか?映画では、その起源について多くは語られません。『MIB3』で1969年の組織の様子が描かれましたが、それ以前の歴史は謎に包まれたままです。政府から独立し、莫大な予算と権限を持つこの組織が、数人の人間だけで立ち上げられたと考えるのは、いささか不自然ではないでしょうか。

もしかしたら、MIBの設立そのものに、何らかの「人間ならざる存在」が関与していた可能性はないでしょうか。例えば、地球人類に友好的な一部のエイリアン種族が、来るべき脅威に備えるため、人類に知識とテクノロジーを与え、その運営を託した、というようなシナリオです。

その最大の根拠が、彼らが所有するオーバーテクノロジーです。ニューラライザーやディ・アトマイザーといったガジェットは、エイリアンから供与されたものと説明されています。しかし、それらのテクノロジーを完璧に理解し、メンテナンスし、さらには改良まで行っているのは、MIB内部の人間(あるいは人型の何か)です。これは、組織が設立当初から、地球の科学レベルを遥かに超えた知識体系を持っていたことを示唆しています。彼らは単にエイリアンから「道具」を与えられただけでなく、その根幹となる「概念」や「物理法則」そのものを理解しているように見えます。

これは、MIBがもはや純粋な人間組織ではなく、ある種の「地球外文明の代理機関」あるいは「次元間テクノロジーの管理者」としての側面を持っていることの現れかもしれません。

■エージェントたちの超人的な資質

MIBのエージェントに選ばれる人間は、心身ともに「最高の中の最高(the best of the best)」とされています。しかし、彼らが見せる能力は、単に訓練で到達できるレベルを逸脱しているように見える瞬間があります。

  • 情報処理能力と精神力: エージェントたちは、常人なら発狂しかねない宇宙の真実を目の当たりにしても、冷静さを失いません。エージェントJが初めてMIB本部に足を踏み入れた際、多種多様なエイリアンの姿に驚きはするものの、すぐに順応してみせました。これは、候補者選定の段階で、極めて特殊な精神構造を持つ人間が選ばれていることを示しています。あるいは、エージェントになる過程で、何らかの精神的な処置や強化が行われている可能性も考えられます。
  • 肉体的耐久力: 彼らはエイリアンとの激しい戦闘で、常人なら即死しているような衝撃を受けても、驚異的な回復力を見せることがあります。もちろん、これは映画的な演出という側面が大きいでしょう。しかし、深読みすれば、彼らの肉体もまた、未知のテクノロジーによって強化されている、という解釈も成り立ちます。

エージェントたちは、自らの過去を消し去り、組織に全てを捧げます。その過程で、彼らは「人間」という枠組みから、少しずつ逸脱していくのかもしれません。彼らは、人間と、人間を超えた存在との「境界線上」に立つ、ハイブリッドな存在へと変質していくのではないでしょうか。

■「影」としての存在

MIBの最も本質的な特徴は、彼らが「存在しない」ことです。彼らは社会の光が当たる場所には決して現れず、常に「影」として活動します。この「影」というメタファーは、ジョン・A・キールが語る「影の次元」から来た存在というイメージと不気味に重なります。

映画の中で、エージェントKはJにこう語ります。「我々は存在しない。我々は幻だ。政府のいかなるシステムにも我々の記録はない。我々は社会の噂の上にだけ存在する」。

これは、都市伝説のMIBが、確固たる証拠を残さず、目撃者の曖ăpadăな記憶や噂の中にだけ存在する点と酷似しています。映画のMIBも、都市伝説のMIBも、共に我々の現実の「裂け目」や「空白」に存在するのです。

映画制作者たちが、都市伝説のMIBが持つ「実体感のなさ」「現実からの浮遊感」を意識し、それをヒーロー像に落とし込んだ結果、このような設定になったのかもしれません。しかし、その結果として、映画版MIBもまた、その存在自体が「人間的な確かさ」から切り離された、どこか異質な存在として描かれることになったのです。

彼らは地球を守る守護者でありながら、その存在はまるで幽霊や幻のようです。このアンビバレントな性質こそが、彼らが単なるヒーローではなく、より深い謎を秘めた存在であることを我々に示唆しているのかもしれません。


第5章:守護者か、監視者か? – MIBの二つの顔

私たちはこれまで、二つの異なる「メン・イン・ブラック」の姿を見てきました。一つは、映画の中で描かれる、人類愛に根差した**「守護者」としてのMIB。もう一つは、都市伝説の中で囁かれる、真実を冷徹に隠蔽する「監視者」**としてのMIBです。

この二つの顔は、一見すると水と油のように混じり合いません。しかし、視点を変えれば、これらは同じ存在が持つ「表と裏」の顔なのかもしれないのです。この最終章では、この矛盾した二面性を統合し、MIBという存在の本質に迫る思考実験を試みたいと思います。

■「大衆のパニックを防ぐ」という共通の正義

両者の行動原理には、実は奇妙な共通点があります。それは、「一般大衆を真実から遠ざける」という点です。

映画版MIBは、その理由を明確に語ります。「一個人は賢いが、大衆は愚かでパニックを起こす獣だ」というエージェントKのセリフが象徴するように、彼らは宇宙の真実を一般人が知れば、社会が大混乱に陥ると考えています。だからこそ、彼らはニューラライザーを使い、記憶を消去してでも、社会の平穏と秩序を守ろうとします。この文脈において、彼らの「隠蔽」は、人類を守るための必要悪であり、一種の「正義」として描かれています。彼らは、重い真実を自分たちだけで背負う、孤独な守護者なのです。

一方、都市伝説のMIBもまた、真実を隠蔽します。しかし、その動機は不明瞭で、不気味です。彼らは目撃者を脅し、恐怖によって口を封じます。そのやり方は暴力的で、守護者のそれとは到底思えません。しかし、もし彼らの目的もまた、「人類のパニックを防ぐこと」だとしたらどうでしょうか?

ジョン・A・キールの言う「ウルトラ・テレストリアル」が、人類の精神的な成熟度を観察しており、「まだ真実を知る段階にない」と判断しているのかもしれません。彼らにとって、人類は保護観察対象の未熟な種族であり、過剰な情報を与えれば自滅しかねない危険な存在。だからこそ、彼らは冷徹な「監視者」として、UFOやエイリアンという「劇薬」に触れすぎた個人を強制的に排除し、群れ全体の安定を維持しようとしている――。

このように考えると、「守護」と「監視」は、同じ目的を異なる手段で達成しようとする行為と解釈できます。映画のMIBは人類の“内側”から愛情をもって守り、都市伝説のMIBは人類の“外側”から無感情に管理している、と言えるのかもしれません。

■誰にとっての「守護者」なのか?

ここで、さらに一歩踏み込んだ問いを立ててみましょう。映画のMIBは、本当に「人類」のためだけに戦っているのでしょうか?

彼らが守っているのは、厳密には「地球という惑星の秩序」です。地球は、多くのエイリアン種族が訪れる、銀河系の重要な中立地帯として設定されています。もし人類がエイリアンの存在を知り、暴走すれば、その秩序は崩壊し、星間戦争に発展するかもしれません。

つまり、MIBの最優先事項は「地球の平和」であり、そのために「人類の無知」を維持している、という見方もできます。彼らの正義は、必ずしも個々の人間の幸福と一致するわけではないのです。愛する人と結ばれる未来を諦めたエージェントKの人生は、その象徴です。大義のためには、個人の幸せや真実を知る権利は犠牲にされる。これは、ある意味で非常に冷徹な思想です。

この視点に立つと、映画のMIBもまた、一種の「監視者」としての側面を色濃く持っていることがわかります。彼らは、我々人類が「知らなくていいこと」の境界線を定め、そのラインを越えさせないように管理する、巨大なシステムの番人なのです。

そして、そのシステムを構築したのが、もし人類を超えた存在――例えば、キールの言うウルトラ・テレストリアルや、あるいは高次元の知性体――だとしたら?

映画のMIBは、その高次元存在の意向を受けて地球の秩序を維持する「現場管理人」であり、都市伝説のMIBは、その管理体制から逸脱しようとする者を直接排除しに来る「介入部隊」なのかもしれません。そう考えると、二つのMIBは、同じ組織の中で異なる役割を担う、別の部署のような関係性として捉えることも可能になります。

■我々の認識の境界線に立つ「影」

結局のところ、MIBの正体は、我々がどの視点から彼らを見るかによって、その姿を変えるのかもしれません。

映画の物語を信じるならば、彼らは自己犠牲の精神を持った人間であり、我々の平和を守るヒーローです。
都市伝説を信じるならば、彼らは人間性を欠いた冷酷な存在であり、真実を覆い隠す不気味な番人です。
そして、ジョン・A・キールの仮説を受け入れるならば、彼らは我々の現実そのものを揺るがしかねない、異次元からやってきた理解不能な「影」そのものです。

彼らは、我々が知る「日常」と、知り得ない「真実」との境界線上に立っています。黒いスーツは、その境界線を象徴する色なのかもしれません。光も闇もすべて吸収し、その向こう側にあるものを決して見せない、絶対的な黒。

映画『メン・イン・ブラック』は、この深遠な謎を、エンターテイメントという光で見事に照らし出しました。しかし、その光が強ければ強いほど、その背後に落ちる影もまた、濃くなるのです。


結論:記憶を消されても、問い続けること

映画『メン・イン・ブラック』の世界と、都市伝説が渦巻く現実の狭間で、私たちは「黒服の男」という謎を巡る長い旅をしてきました。

映画が描くのは、人間としてのエージェントたちが、人類愛のために戦う「守護者」の物語でした。彼らのユーモアと人間臭さは、私たちに安心感と希望を与えてくれます。しかし、その物語の原点である都市伝説に目を向けると、そこには表情も感情もなく、ただ機械的に真実を隠蔽する「監視者」の姿が不気味に浮かび上がります。

そして、ジョン・A・キールが提唱した「ウルトラ・テレストリアル仮説」は、彼らが宇宙人ですらなく、我々の次元のすぐ隣にある“影の次元”からやってきた、理解を超えた存在である可能性を示唆しました。人間のフリをした、人間ではない何か。その仮説は、映画の中に散りばめられた数々のヒントによって、奇妙な説得力を持ち始めます。

守護者か、監視者か。
この問いの答えは、一つではないのかもしれません。彼らは、我々人類という種族を、より大きな視点から「管理」する存在であり、その管理方法が、時には「守護」のように見え、時には「監視」のように見えるだけなのかもしれません。それはまるで、羊飼いが羊の群れをオオカミから守る一方で、群れからはみ出す羊を柵の中に戻す行為に似ています。羊の視点から見れば、羊飼いは守護者であり、同時に自由を奪う監視者でもあるのです。

映画『メン・イン・ブラック』のラストシーンで、カメラが地球からどんどん引いていき、我々の銀河系全体が、巨大なエイリアンのビー玉遊びの玩具に過ぎなかったことが明かされるシーンがありました。あのシーンは、我々の常識や価値観がいかに矮小で、絶対的ではないかを痛烈に突きつけてきます。

MIBの正体もまた、それと同じなのかもしれません。我々が「人間」「異次元存在」と分類しようとすること自体が、この宇宙の真実の前では無意味な試みなのかもしれないのです。

確かなことは一つだけ。黒いスーツの男たちの伝説は、私たちに問いかけ続けています。「お前たちが『現実』と呼んでいる世界は、本当にすべてなのか?」と。

たとえニューラライザーで記憶を消されたとしても、その問いと、それによって生まれる好奇心だけは、決して消されることはないでしょう。そして、その問いを持ち続ける限り、私たちはいつか、黒いスーツの向こう側にある真実に、一歩近づけるのかもしれません。

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