私たちが生きているこの世界は、実は巨大なコンピューターシミュレーションの中のバーチャルリアリティなのではないか？近年、哲学者や科学者の間でこのような議論が活発化しています。本記事では、シミュレーション仮説の根拠と反論を詳しく見ていきながら、私たちの世界の本質について考えを深めていきます。
シミュレーション仮説とは
シミュレーション説とは、私たちが知覚している現実世界は実際には存在せず、コンピューターによって生成された仮想現実に過ぎないという学説です。この考え方は哲学や宗教の世界では古くからありましたが、コンピューター技術の発達により、近年科学的な議論の対象となってきました。
オックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロム博士は2003年の論文で、私たちがコンピューターシミュレーションの中に生きている確率は約20％と主張し、大きな話題となりました。ボストロム博士は、(1)文明は存続する (2)ポストヒューマンの文明はコンピューターシミュレーションを作る能力を持つ (3)ポストヒューマン文明はたくさんのシミュレーションを作る、という3つの前提から、統計的に見て私たちがシミュレーションの中にいる確率は無視できないと論じました。
VR説を支持する根拠
シミュレーション仮説を支持する根拠としては、以下のようなものが挙げられます。
- 量子力学の不思議な性質 量子力学では、観測者が実験結果に影響を与えるなど、古典的な物理法則では説明できない現象が多数見られます。例えば二重スリット実験では、電子は観測されるまで確定した位置を持たず、観測された瞬間に初めて粒子としての性質を示します。これはまるでコンピューターゲームの世界のように、観測者の存在によって初めて現実が生成されているかのようです。
- 宇宙のシミュレーション可能性 コンピューター科学の発展により、私たちの宇宙全体をコンピューターでシミュレートすることが理論的に可能だと分かってきました。そのため地球外文明がそのようなシミュレーションを行っていたとしても不思議ではありません。宇宙のシミュレーション可能性は、私たちが仮想現実の中にいるというアイデアに説得力を与えています。
- 脳と意識の関係 現代の神経科学では、意識は脳の活動に起因すると考えられています。脳をコンピューターでシミュレートできれば、そこから生まれる意識もシミュレーション可能なはずです。そうだとすれば、私たちの意識もコンピューターによって生成された仮想的なものかもしれません。
VR説への反論
一方で、説に対しては次のような反論も存在します。
- オッカムの剃刀 オッカムの剃刀の原理は、「同じ現象を説明するなら、仮定は少ないほうがよい」というものです。VR説は現実世界の存在に加えて、それをシミュレートしている文明の存在も仮定する必要があります。これはオッカムの剃刀に反するとも言えます。私たちが見ている世界をそのまま受け取るほうが、余計な仮定が少なくてすむのです。
- シミュレーションの目的は？ 私たちの世界が仮想現実だとして、それをシミュレートしている文明の目的は何なのでしょうか。科学的な実験のため？好奇心から？単なる娯楽のため？いずれにしても、シミュレーションに費やすコストに対して得られるメリットが見合うかどうか疑問です。シミュレーションには膨大なエネルギーとコンピューターパワーが必要なはずで、あまり現実的とは言えません。
- 真のリアリティへのアクセス不可能性 仮に私たちがVRの中にいるとして、その外側の真のリアリティへアクセスすることは原理的に不可能です。私たちにとって観測可能な世界がすべてであり、それ以上のリアリティを知る術はありません。であれば、VR説を議論すること自体にあまり意味がないとも言えるでしょう。私たちにとって、この世界がリアルであることに変わりはないのです。
私たちの世界がバーチャルリアリティではないかというアイデアについて、哲学と科学の観点から詳しく考察しました。VR説を支持する根拠としては、量子力学の不思議な性質、宇宙のシミュレーション可能性、脳と意識の関係などが挙げられます。一方で、オッカムの剃刀の原理やシミュレーションの現実性、真のリアリティへのアクセス不可能性などの反論もあります。
結局のところ、私たちがVRの中で生きているかどうかを確かめる決定的な方法はなさそうです。しかし、このような思考実験を通して、私たちは現実の本質について考えを巡らせ、世界観を広げることができます。VRであれリアルであれ、私たちを取り巻く世界の不思議さと美しさに感嘆し、より深く理解しようと努めることが大切なのかもしれません。
