アメリカ合衆国。自由と平等の国と謳われるこの超大国の裏側には、一般市民が決して覗くことのできない「階層」が存在します。
あなたは、ΦΒΚ(ファイ・ベータ・カッパ)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
それは、アメリカの大学生にとって最高の栄誉であり、知性と勤勉の証明です。
では、その綴りを逆さにしたΚΒΦ(カッパ・ベータ・ファイ)については?
おそらく、ほとんどの人が知らないはずです。知る必要がないからです。いや、知られることを彼らが拒んでいるからです。
これは、表の世界を統べる「光の学術団体」と、裏の世界で富を独占する「闇の金融結社」の物語。
今回は、都市伝説よりも恐ろしい、ウォール街の頂点に君臨するエリートたちの実態を暴いていきます。
第1章:光の頂点「ΦΒΚ」——選ばれし知性の証明
[画像: ΦΒΚの象徴である「黄金の鍵(Golden Key)」のアップ。背景には古い図書館や書物]
1776年、すべての始まり
アメリカ合衆国が独立宣言を行った1776年。同じ年に、バージニア州の名門ウィリアム・アンド・メアリー大学で一つの学生団体が産声を上げました。それがΦΒΚ(Phi Beta Kappa)です。
彼らの理念は高潔そのものでした。
ギリシャ語のモットー Philosophia Biou Kybernetes (フィロソフィア・ビウ・キュベルネーテス)。すなわち、「知恵(哲学)こそが人生の導き手である」。
エリートへのパスポート
ΦΒΚの会員になることは、単に「勉強ができる」ことの証明ではありません。それはアメリカ社会において、「将来のリーダー」としての認証(Certified)を受けることに等しいのです。
- ビル・クリントン(元大統領)
- ジョージ・H・W・ブッシュ(元大統領)
- ジェフ・ベゾス(Amazon創業者)
- コンドリーザ・ライス(元国務長官)
歴代の大統領、最高裁判事、ノーベル賞受賞者……。彼らの経歴には必ずと言っていいほど「ΦΒΚ」の文字が刻まれています。彼らは大学時代、図書館にこもり、リベラルアーツを学び、科学を修め、禁欲的なまでに知性を磨き上げました。
彼らが手にする「黄金の鍵」のバッジは、努力と才能でアメリカンドリームを掴み取ろうとする、清廉潔白なエリートの象徴なのです。ここまでは、私たちが教科書で習う「美しいアメリカ」の姿と言えるでしょう。
しかし、光が強ければ強いほど、影もまた色濃く落ちるのがこの世の理です。
第2章:闇の反転「ΚΒΦ」——大恐慌が生んだ悪魔的パロディ
[画像: 1929年のウォール街の暴落を報じる新聞記事と、その上に重なる不気味な紋章(ミソサザイ)]
1929年、絶望の中で生まれた祝杯
ΦΒΚの設立から約150年後。1929年、世界経済はどん底にありました。「世界恐慌*です。
株価は大暴落し、失業者が街に溢れ、多くの銀行家がビルから飛び降りたと言われる絶望の年。
信じがたいことに、この混乱の最中に、ウォール街の一部の金融エリートたちが一つの秘密結社を結成しました。それがΚΒΦ(Kappa Beta Phi)です。
名前を見て気づきましたか?
そう、高潔なるΦΒΚの文字を完全に逆順にしたのです。
徹底された「反・知性」と「拝金主義」
彼らがΦΒΚを逆さにしたのは、単なる言葉遊びではありません。そこには、ΦΒΚが掲げる「学問的・禁欲的価値観」への強烈な皮肉と嘲笑が込められています。
ΦΒΚのモットーが「知恵は人生の導き手」なら、ΚΒΦのモットーはラテン語で Dum Vivimus Vivamus。
「生きているうちは、生きよう(享楽を貪ろう)」。
学問? 哲学? そんなもので飯が食えるか。
彼らにとって重要なのは、ただ一つ。「金(Money)」と「権力(Power)*のみ。
構成員:マスター・オブ・ユニバース
ΚΒΦに入会できるのは、成績優秀な学生ではありません。
ウォール街の巨大投資銀行(ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなど)のCEO、ヘッジファンドの帝王、元ニューヨーク市長、そして政府の金融当局者……。
彼らは自らを「マスター・オブ・ユニバース(宇宙の支配者)」と呼ぶような、資本主義の頂点に立つ男たちです。表向きはΦΒΚの会員として知的な顔を持つ者も、夜になればΚΒΦのローブをまとい、強欲な本性を曝け出すのです。
第3章:奇怪なシンボルと狂気の儀式
[画像: 豪奢なホテルの晩餐会会場。赤いベルベットのカーテンの奥で、タキシード姿の男たちが笑っている様子(ぼかし加工)]
ΚΒΦについては長年、まことしやかな都市伝説が囁かれてきました。「悪魔崇拝を行っている」「フリーメイソンの上位組織である」などです。しかし、実際に明らかになったその実態は、オカルト的な恐怖というよりは、吐き気を催すほど悪趣味な「成金たちの悪ふざけ」でした。
紋章に隠されたメッセージ
彼らの紋章には、高貴な鷲(ワシ)やライオンではなく*「ミソサザイ」という小さな鳥が描かれています。
しかも、その鳥はただ枝に止まっているのではなく、「自分自身の尻を見つめている」ポーズをとっているのです。
これには2つの意味があるとされています。
- 自己愛: 自分自身しか愛せない、ナルシシズムの極み。
- 侮蔑: 「俺の尻にキスしな(Kiss my ass)」という、世間一般への強烈な侮蔑。
新入会員への洗礼:億万長者の女装
年に一度、ニューヨークの高級ホテル(セントレジスホテルなど)で行われる入会儀式兼晩餐会。ここで彼らは、外部には絶対に見せられない姿になります。
新しく会員に選ばれた「ネオファイト(新人)」たちは、たとえ社会的地位のある50代、60代の重鎮であっても、とんでもない屈辱を味わわなければなりません。
それは、「女装」です。
金髪のウィッグを被り、バレリーナのチュチュや、露出度の高いウェイトレスの衣装を着せられ、ステージに立たされる。そして、会場を埋め尽くす先輩会員たちから、野次や罵声を浴びせられるのです。
「おい! もっと脚を上げろ!」
「その格好、お前の妻より似合ってるぞ!」
数兆円を動かす男たちが、安っぽいドラァグクイーンのような格好で踊らされる。これは、彼らの間の結束を強めるための「通過儀礼(ヘイジング)」であり、「俺たちは世間の常識など通用しない場所にいる」という共犯関係を確認する儀式なのです。
第4章:2014年の暴露——都市伝説が「現実」になった日
[画像: ジャーナリストが隠し撮りしたような、少しブレたスマートフォンの画面越しの映像イメージ。ステージ上で歌う男たちの姿]
長らく厚いベールに包まれていたΚΒΦですが、2014年、ついにその扉がこじ開けられました。
ニューヨーク・マガジンの記者、ケビン・ルース(Kevin Roose)が決死の潜入取材を敢行したのです。
彼はウェイターのふりをして会場に潜り込み、そこで見た光景を全世界に暴露しました。その内容は、リーマン・ショックで傷ついた世界中の人々の神経を逆撫でする、あまりにも残酷なものでした。
嘲笑された「リーマン・ショック」
潜入が行われたのは、世界金融危機からまだ数年しか経っていない時期です。多くの市民が家を失い、職を失い、路頭に迷っていました。
しかし、ΚΒΦの会場では、高級ワインとラムチョップが振る舞われ、以下のような替え歌が大合唱されていました。
「ウォール街の救済なんて夢見てる(I’m dreaming of a Wall Street bailout)」「心配するな、どうせ政府が助けてくれる」
彼らは、自分たちが引き起こした経済危機を反省するどころか、「自分たちは大きすぎて潰せない(Too Big to Fail)」ことをネタにし、税金で救済されたことを高らかに歌い上げていたのです。
貧困層への見下し
さらに、ステージ上の寸劇(スキット)では、当時のヒラリー・クリントン国務長官や、オキュパイ・ウォールストリート(ウォール街を占拠せよ)運動に参加する若者たちを馬鹿にするジョークが連発されました。
「俺の年収? ヒラリーの講演料より高いぜ」
「貧乏人が外で騒いでいる間に、キャビアでも食べようか」
会場は爆笑の渦。そこには、ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)のかけらもありませんでした。あるのは、圧倒的な「万能感」と、自分たち以外の人類を「養分」としか見ていない冷徹な視線だけでした。
取材がバレたケビン・ルースに対し、ある会員は激昂してこう詰め寄ったといいます。
「録音したものを消せ! 俺たちが誰だか分かっているのか!?」
第5章:結論——本当の恐怖とは何か
[画像: 暗闇の中に浮かび上がるマンハッタンの摩天楼。ビルの窓の光が、まるで監視する目のように見える]
ΦΒΚとΚΒΦ。
この二つの組織の対比から見えてくるのは、アメリカ、いや現代資本主義社会のグロテスクな構造です。*ΦΒΚ(光)は、若者たちにこう教えます。
「勉強しなさい。努力しなさい。そうすれば報われる。知性は尊いものだ」と。
しかし、その競争を勝ち抜き、システムの最上層に到達した者がたどり着くΚΒΦ(闇)の世界では、その教えは完全に反転します。
「真面目な奴は馬鹿を見る。ルールは破るためにある。金こそが全てだ」と。
都市伝説で語られるような、黒いローブを着て生贄を捧げる儀式など、彼らには必要ありません。
彼らにとっての生贄は、サブプライムローンで破産した家族であり、リストラされた労働者であり、インフレに苦しむ私たち一般市民だからです。
「公然の秘密」の恐ろしさ
ΚΒΦの会員たちは、決して「悪人」の顔をして社会生活を送っているわけではありません。彼らは慈善団体の理事を務め、大学に寄付をし、メディアでは「経済の安定」について真剣な顔で語っています。
しかし、ひとたび「鍵のかかった扉」の向こう側に入れば、彼らは自分たちの尻を見つめる鳥の旗の下、庶民の不幸を肴に祝杯をあげています。
天才集団ΦΒΚの「知性」は、最終的にΚΒΦの「強欲」に奉仕するために搾取されているのではないか?
それこそが、この二つの組織の関係性が示唆する、最も恐ろしい現代のホラーストーリーなのかもしれません。
もしあなたが今後、ニュースでウォール街の重鎮たちが「市場の安定」や「公益」を語る姿を見たら、思い出してください。
彼らのスーツの下には、女装用のスパンコールが隠されているかもしれないことを。
そして、その瞳の奥では、必死に生きる私たちを「ミソサザイ」のように嘲笑っているかもしれないことを。

