イーロン・マスクも信じる「シミュレーション仮説」を数学で徹底解説!私たちがNPC(ゲームのキャラクター)である確率は99.9%!? Are We a Program?

あなたの「現実」は、本当に現実ですか?

もし、今あなたが見ているこの世界が、誰かによって作られた精巧なコンピュータシミュレーションだとしたら…?

まるでSF映画『マトリックス』のような話ですが、これは単なる空想の産物ではありません。テスラやスペースXのCEOとして知られるイーロン・マスクが「この世界が現実である確率は十億分の一だ」と公言するなど、世界のトップランナーたちが真剣に議論しているテーマ、それが「シミュレーション仮説」です。

「私たちはゲームの中に生きるキャラクター、いわば**NPC(ノンプレイヤーキャラクター)**なのではないか?」

この突拍子もない問いに、多くの人は眉をひそめるかもしれません。しかし、この仮説は単なる憶測や都市伝説の類とは一線を画します。その根拠は、オックスフォード大学の天才哲学者、ニック・ボストロムによって提示された、極めて厳密な数学的論証に基づいているのです。

この記事では、難解に思えるこの「シミュレーション仮説」を、誰にでも理解できるよう、その核心にある数学のロジックを紐解きながら徹底的に解説します。私たちが仮想世界の住人である確率がなぜ99.9%以上にもなるのか、その驚くべき結論に至る思考の旅にご案内しましょう。この記事を読み終えたとき、あなたは目の前の「現実」を、これまでと同じようには見られなくなるかもしれません。


第1章:シミュレーション仮説とは何か? – 古代の哲学から現代の科学へ

まず、「シミュレーション仮説」とは一体何なのか、その基本的な概念から整理しましょう。この仮説を一言で説明するなら、「私たちが認識している宇宙全体、そして私たち自身の意識や経験は、より高度な文明によって作られたコンピュータシミュレーションの一部である」という考え方です。

この発想自体は、実はそれほど新しいものではありません。古代ギリシャの哲学者プラトンは、有名な「洞窟の比喩」を用いて、私たちが見ている現実は、洞窟の壁に映し出された影のようなものであり、真の実在(イデア)ではないかもしれない、と説きました。つまり、「私たちの認識する世界は、本物の世界ではないかもしれない」という問いは、人類の歴史と共に存在してきた根源的なテーマなのです。

では、なぜ今、この古い哲学的な問いが、科学者や起業家たちの間で熱を帯びて議論されているのでしょうか。その最大の理由は、コンピュータ技術の飛躍的な進歩にあります。

考えてみてください。わずか数十年前、ビデオゲームといえばドット絵で描かれた単純なものでした。しかし現在では、写真と見紛うほどのリアルなグラフィックスで構成された広大なオープンワールドゲームが存在します。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術は、私たちをデジタルの世界に没入させ、現実との境界を曖昧にし始めています。

この技術進化の延長線を想像してみてください。もし、コンピュータの処理能力がこのまま指数関数的に向上し続ければ(これは「ムーアの法則」として知られています)、いずれは物理法則から人間の意識まで、現実世界と全く区別のつかないレベルでシミュレートすることが可能になるのではないでしょうか?

この「技術的に可能かもしれない」という現実味が、古代の哲学的な問いを、現代科学の俎上に載せる強力な推進力となりました。そして、この漠然とした可能性に、厳密な論理のメスを入れたのが、哲学者ニック・ボストロムだったのです。彼は、この問題を「信じるか信じないか」という主観的な話ではなく、「論理的にどう考えられるか」という確率論のフィールドに引き込みました。次の章では、彼の驚くべき論証を見ていきましょう。


第2章:天才哲学者ニック・ボストロムの衝撃的な「トリレンマ」

2003年、オックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロムは、「Are You Living in a Computer Simulation?(あなたはコンピュータシミュレーションの中に住んでいるか?)」という画期的な論文を発表しました。この論文で彼が提示したのが、シミュレーション仮説の議論の中心となる「トリレンマ」です。

トリレンマとは、3つの選択肢のうち、どれか1つは必ず真実でなければならない、という論理構造のことです。ボストロムが提示した3つの命題は以下の通りです。

  1. 絶滅のシナリオ: 知的文明は、自分たちの祖先をシミュレートできるほどの技術レベル(ポスト・ヒューマン段階)に到達する前に、ほぼ間違いなく絶滅する
  2. 無関心のシナリオ: ポスト・ヒューマン段階に到達した知的文明は、倫理的、あるいはその他の理由から、祖先のシミュレーションを実行することにほとんど関心を持たない
  3. シミュレーションのシナリオ: 私たちは、ほぼ間違いなくコンピュータシミュレーションの中に生きている

ボストロムは、これら3つのうち、少なくとも1つは真実であると主張します。この論理は非常に強力です。なぜなら、もし1番目と2番目のシナリオが「偽」であると仮定すると、必然的に3番目のシナリオが「真」となるからです。

少し詳しく考えてみましょう。

まず、1番目の「絶滅のシナリオ」が偽であると仮定します。これは、知的文明が核戦争、気候変動、AIの暴走といった「グレート・フィルター」を乗り越え、無事にポスト・ヒューマン段階まで発展できることを意味します。彼らは、現実と区別のつかないシミュレーションを創り出す技術力を手に入れるのです。

次に、2番目の「無関心のシナリオ」も偽であると仮定します。これは、技術力を持ったポスト・ヒューマンたちが、実際にシミュレーションを実行することに強い関心を持つことを意味します。歴史研究、科学実験、あるいは純粋なエンターテイメントとして、彼らは自分たちの祖先が住んでいた世界を再現するでしょう。そして、その技術力をもってすれば、1つの文明が何十億、何兆という膨大な数のシミュレーションを実行することは容易に想像できます。

さて、ここで重要なポイントです。もし1と2が両方とも偽ならば、宇宙には**「現実のポスト・ヒューマン文明」が1つ存在する一方で、彼らが創り出した「シミュレーション内の文明」が何兆と存在する**ことになります。

この状況で、あなたが意識を持つ存在として生まれたとします。あなたは、たった1つの「現実世界」の住人でしょうか?それとも、無数に存在する「シミュレーション世界」の住人の一人でしょうか?

確率論的に考えれば、答えは明白です。意識を持つ存在の圧倒的多数は、シミュレーションの中にいることになります。砂浜に落ちている無数の砂粒の中から、偶然にもたった1つの特別なダイヤモンドを引き当てるようなものです。したがって、私たちがシミュレーションの中にいる確率は、極めて高くなるのです。

これが、ボストロムのトリレンマの骨子です。彼はこの論理をさらに推し進め、具体的な数式を用いて、その確率を計算しました。次の章では、この記事の核心であるその数学的アプローチを、一つひとつ丁寧に解き明かしていきます。


第3章:【数学で解説】私たちがNPCである確率99.9%を導く数式

ここからは、ボストロムが私たちの現実を揺るがした数式について、中学レベルの数学知識で理解できるよう、ステップバイステップで解説します。一見すると複雑に見えますが、そのロジックは驚くほどシンプルです。

ステップ1:確率の基本形を理解する

まず、私たちが「シミュレーション内の存在(NPC)」である確率 f_sim は、非常に単純な分数で表せます。

f_sim = (シミュレーション内にいる人の総数) / (存在するすべての人の総数)

これは、言い換えれば、

f_sim = (NPCの人口数) / (NPCの人口数 + 本当の人間の人口数)

となります。これは、クラスの中に女子が何%いるかを計算するのと同じ考え方です。(女子の人数)÷(クラスの全人数)ですよね。この基本形が全ての出発点です。

ステップ2:数式の各要素を定義する

次に、この式に出てくる「NPCの人口数」と「本当の人間の人口数」を、ボストロムが使った記号で定義していきます。

  • H(エイチ・バー):本当の人間の人口数
    これは、シミュレーションではない「現実世界」に存在する人間の総数です。ボストロムは、現在生きている人だけでなく、歴史上存在したすべての人類を含めて考えています。これは約1000億人と推定されています。
  • NPCの人口数:
    こちらは少し複雑で、3つの要素の掛け算で表されます。
    NPC人口数 = f_p × N × H
    • f_p(エフ・ピー):人類のような文明が、ポスト・ヒューマン段階(精巧なシミュレーションを作れる段階)まで生き延びる確率
    • N(エヌ・バー):ポスト・ヒューマン段階に達した文明が、平均していくつの祖先シミュレーション(仮想現実)を作るかという数。
    • H(エイチ・バー):一つの仮想現実の中に存在する平均的な人口

つまり、生き残った文明の割合 (f_p) に、それらの文明が作るシミュレーションの数 (N) を掛け、さらに各シミュレーション内の人口 (H) を掛けることで、存在するであろうNPCの総数が算出できる、というわけです。

ステップ3:より現実に即した「意欲」の要素を加える

ボストロムは、ここでさらに思考を深めます。技術力があっても、必ずしもシミュレーションを実行するとは限りません。倫理的な理由や法規制で、開発に消極的な文明もあるでしょう。そこで、彼は「意欲」という要素を式に加えます。

  • f_I(エフ・アイ):ポスト・ヒューマン文明のうち、実際に仮想現実を開発する意欲がある文明の割合
  • N_I(エヌ・アイ):開発する意欲を持った文明が、平均していくつの仮想現実を開発するかという数。

この要素を組み込むと、ボストロムが最終的に提示した数式が完成します。

f_sim = (f_p * f_I * N_I) / ((f_p * f_I * N_I) + 1)

※厳密には元の数式ではH(人口)が約分されて消えます。これは、現実世界の人口とシミュレーション内の人口が同程度だと仮定しているためで、式はよりシンプルになります。分母の H が 1 になっているのは、比率を考えているためです。「現実世界」という1つの存在に対して、どれだけのシミュレーション世界が存在するか、という比です。

ステップ4:驚愕の結論へ

さて、この式がなぜ「確率99.9…%」という結論を導き出すのでしょうか。鍵を握るのは N_I、つまり「意欲ある文明が作る仮想現実の数」です。

ポスト・ヒューマン文明は、計り知れないほどの演算能力を持つスーパーコンピュータを保有しているはずです。彼らにとって、一つの仮想現実を動かすコストはごくわずかでしょう。そうなれば、彼らは研究や娯楽のために、天文学的な数の仮想現実を作り出す可能性があります。つまり、N_I は非常に巨大な数になると考えられます。

N_I が例えば1兆(10の12乗)だとしましょう。すると、f_p や f_I がたとえ小さな値(例えば0.1)だとしても、分子 (f_p * f_I * N_I) はとてつもなく大きな数になります。

ここで分母を見てください。(巨大な数) + 1 となっています。巨大な数に「1」を足しても、その値はほとんど変わりません。つまり、分子と分母がほぼ同じ値になるのです。

分数が (巨大な数) / ((巨大な数) + 1) という形になるため、その計算結果は限りなく1に近づきます
これが、0.9999999… という確率の正体です。

この数学的ロジックが示すのは、もしポスト・ヒューマン文明が存在し、彼らが少しでもシミュレーションに興味を持つならば、宇宙に存在する意識のほとんどはシミュレーション内のものになる、という恐るべき結論なのです。


第4章:私たちが「現実」にいるための、わずかな可能性

では、私たちがシミュレーションの中にいない、つまり「現実世界」の住人である可能性は全くないのでしょうか?ボストロムの理論は、そのわずかな可能性も示唆しています。それは、彼のトリレンマの1番目か2番目のシナリオが真実である場合です。

シナリオ1:「グレート・フィルター」の存在 (f_pが限りなく0に近い場合)

これは、シミュレーション仮説の中で最も恐ろしい可能性かもしれません。f_p、つまり文明がポスト・ヒューマン段階まで生き延びる確率が極めて低いというシナリオです。

これは「グレート・フィルター」という概念で説明されます。宇宙には知的生命体が誕生するための障壁(フィルター)がいくつも存在し、ほとんどの文明はそのフィルターを越えられずに絶滅してしまう、という考えです。そのフィルターが、核戦争、制御不能なパンデミック、AIの反乱、あるいはまだ私たちが知らない何かである可能性は十分にあります。

もしこのシナリオが真実なら、私たちがシミュレーションの中にいない理由は単純です。シミュレーションを作れるほど高度に進化した文明が、宇宙のどこにも存在しないからです。私たちは、いずれ訪れるであろう絶滅の運命を前にした、束の間の存在なのかもしれません。

シナリオ2:倫理的な選択 (f_Iが限りなく0に近い場合)

もう一つの可能性は、より希望に満ちたものです。f_I、つまりポスト・ヒューマン文明がシミュレーションを実行する意欲を持つ割合が極めて低いというシナリオです。

高度な知性と倫理観を獲得した文明は、意識を持つ存在を仮想空間に閉じ込め、彼らの苦しみや喜びを観察することを、倫理的に許されない行為だと考えるかもしれません。彼らは強大な技術力を持ちながらも、その力を使うことを自制するのです。

もしこのシナリオが真実なら、私たちはシミュレーションの中にいません。なぜなら、シミュレーションを作れる文明は存在するものの、彼らがそれを作らないことを選択したからです。これは、人類の未来に対する一つの理想像とも言えるでしょう。

しかし、ボストロムの論理に戻ると、もしこれら2つのシナリオがどちらも間違っていると確信できるなら、残された選択肢は一つしかありません。私たちは、ほぼ間違いなくシミュレーションの中に生きているのです。


第5章:仮想と現実の境界線 – XREALが示す未来の入り口

これまで議論してきたシミュレーション仮説は、壮大で哲学的な問いに満ちています。しかし、そのエッセンスは、すでに私たちの日常に忍び寄り始めています。その最前線にあるのが、AR(拡張現実)技術です。

この記事の制作を支援していただいた日本Xreal株式会社が開発するARグラス「XREAL Air 2」と、そのコンパニオンデバイス「XREAL Beam」は、まさに仮想と現実の境界線を曖昧にする未来の体験を提供してくれます。

想像してみてください。わずか72gという、普段使いのサングラスと変わらない軽さのデバイスを装着するだけで、目の前に最大201インチの巨大なスクリーンが浮かび上がります。新幹線での移動中、自宅のソファで寝転がりながら、あるいはカフェでの休憩時間に、まるでプライベートシアターにいるかのように映画やゲームに没入できるのです。

「XREAL Beam」を使えば、スマートフォンやPC、ゲーム機とワイヤレスで接続が可能になり、ケーブルの束縛から完全に解放されます。人間工学に基づいた設計は長時間の使用でも疲れにくく、独自の指向性音響技術によって、音漏れを最小限に抑え、公共の場でもプライバシーを保ちながら楽しむことができます。

さらに、3Dインタラクティブアプリケーション「Nebula」を使えば、現実空間に複数のウェブ画面を同時に表示させ、未来的なオフィスワークを体験することも可能です。

これらの技術が示しているのは、私たちが「現実」と呼ぶ空間に、デジタル情報がシームレスに溶け込んでいく未来です。私たちが作り出す仮想空間が、現実と区別がつかないほどリアルになっていくプロセスは、まさにシミュレーション仮説が描く世界の縮図と言えるかもしれません。

私たちが創り出す仮想現実が進化すればするほど、「私たちの現実もまた、誰かが創り出したものではないか?」という問いは、より一層のリアリティを帯びてくるのです。


まとめ:あなたは蝶か、蝶が見る夢か?

最後に、この記事で探求してきたシミュレーション仮説の要点を振り返りましょう。

  • 衝撃の確率: イーロン・マスクらが支持するシミュレーション仮説は、オックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロムによる数学的論証に基づいています。その結論は、**私たちがシミュレーション内の存在である確率は99.9…%**という、驚くべきものです。
  • 強力な論理「トリレンマ」: この結論は、「①文明は発展前に絶滅する、②高度文明はシミュレーションに興味がない、③私たちはシミュレーション内にいる」という3つのうち、少なくとも1つは真実であるという強力な論理に基づいています。
  • 現実であるための条件: 私たちがシミュレーションではなく「現実」の住人であるためには、ほとんどの文明が技術的特異点を迎える前に滅びるか、あるいは高度な倫理観からシミュレーションを禁じるという、ある意味で極端なシナリオが真実である必要があります。
  • テクノロジーが問いかける現実XREAL Air 2のようなAR技術の進化は、仮想と現実の境界を曖昧にし、シミュレーション仮説をより身近な問題として私たちに突きつけています。私たちが仮想世界を創り出す存在であるならば、私たち自身もまた、誰かの仮想世界の一部である可能性を否定することは難しくなります。

古代中国の思想家、荘子は夢の中で蝶になりました。ひらひらと飛ぶ蝶は、自分が荘子であることを知りません。ふと目が覚めると、彼は紛れもなく荘子でした。しかし、彼は疑問に思います。

果たして、荘子が蝶になった夢を見ていたのか。それとも、蝶が荘子になった夢を見ているのか?

シミュレーション仮説は、この「胡蝶の夢」の問いを、現代の私たちに再び投げかけています。あなたの目の前にあるこの世界、あなたの思考、あなたの感情…それらは本当に「あなた」のものでしょうか。

その答えは、まだ誰も知りません。しかし、この問いを心に留めておくことは、私たちの「現実」をより深く、そして豊かに見つめ直すきっかけを与えてくれるはずです。

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